2023年3月31日(金)公開『生きる LIVING』
出演:ビル・ナイ/エイミー・ルー・ウッド/アレックス・シャープ/トム・バーク/他
監督:オリヴァー・ハーマナス
あべのアポロシネマです。本日はビル・ナイ主演、ノーベル賞作家カズオ・イシグロが脚本を担当し、南アフリカ出身で南アフリカを題材にした映画をこれまで撮ってきたオリヴァー・ハーマナスが初めて南アフリカを舞台とせずに撮影した映画『生きる LIVING』のご紹介です。
この映画『生きる LIVING』は元々黒澤明監督の『生きる』が原作で、名作の呼び声の高い映画史に残る作品です。
黒澤監督の『生きる』は1952年に公開され当時から多くの絶賛と受賞をうけた作品でした。
この作品はかの有名な『七人の侍』の一作前に撮られた作品で、実に70年以上前の作品という事になります。
当時の作品なので白黒のトーキー作品です。
それがまた雰囲気があって良いのですが、今作も原作『生きる』を思わせるスタンダード画郭で映像の色味もカラーではあるものの、少しくすんだ様な色使いを基調としており、そういった部分でも1950年代を思わせる様な映像体験を実現しております。
当時のイギリスを思わせる画郭、サウンド、色調からこの映画の雰囲気をまず楽しんで頂けます。
イシグロさんがビル・ナイさんを見ていて、その佇まいからこの作品の主人公はビル・ナイさんしかいない、彼の演技がイシグロさんの思うキャラクターにピッタリだとして、自らこの黒澤作品のリメイクの脚本を担当しこの作品は誕生しました。
ビル・ナイさんを主人公に想定し書かれた脚本がゆえに彼の演技、空気感を余すところなく捉えたウィリアムズというキャラクターがビル・ナイさんにはまらないはずがありません。
紳士的で勤勉で真面目で、チャーミングで。
ビル・ナイさんの演じるウィリアムズは本当に素敵なキャラクターです。
英国紳士の見本の様なキャラクター造形は日本人の持つ寡黙で勤勉なイメージとも合致し日本の映画がイギリスでリメイクされる意味を改めて見るような思いがしました。
似ている部分、通じる部分があるからこそ、このリメイクは成り立っていて、その懸け橋になっているのがどちらにもルーツを持つ作家、カズオ・イシグロその人なのだという、ある種なるべくしてなった作品だと私は考えます。
日本にルーツをもつイシグロさんが幼少期にこの黒澤映画に衝撃を受け、映画が持つメッセージに影響されて生きてきたと語る『生きる』。
イギリスに舞台を移して誰かがこの作品をリメイクしてくれたら良いのに、とずっと思っていたそうです。
そしてまさか自分がその役を担うことになるとは驚きですが、イシグロさんの著書である『わたしを離さないで』や『日の名残り』などは映画化し、どちらも高い評価を得ている事や、『上海の伯爵夫人』など過去には映画脚本も何本か書いている事を鑑みても今作『生きる LIVING』はある種初めから成功が約束された作品だったと言えるかもしれません。
思い入れを持って描かれたキャラクター達や物語は確かに息づいて、物語を動かしていきました。
まだ戦争の傷跡が残る1950年代のイギリス。
それは日本も同じだったはずです。
日本が舞台の作品を見事にイギリスに落とし込み、トラディショナルで古典とでも言うような名作に新たな息吹を宿した作品です。
また、この作品においてウィリアムズから希望を受け取る若者を演じたエイミー・ルー・ウッドやアレックス・シャープ達若手の演技にも非常に注目で若さと瑞々しさがあって非常に素晴らしかったです。
それほど多くの場面転換がない映画だからこそ一人一人の演技と細やかに配慮された美術セットが素晴らしく、非常に集中して観る事が出来ました。
またこの作品は本当に洗練された音数の少ない楽曲を起用し、物語に寄り添う様な音楽を使用しています。
この謙虚さとメロディーの美しさが際立って本当に素晴らしい映画体験になっているので、そちらも是非注目してみて下さい。
フランス出身のピアニスト、作曲家のエミリー・レヴィネイズ・ファルーシュは本当にこの作品が更なる高みに届くように見事に伴奏しきっています。
色々書いて参りましたが、『生きる LIVING』は今見るべき映画です。
人生とは誰のもので、どの様に生きるか。他人にどう思われようと己の成すべき事を貫き、そのささやかで小さな献身が誰かの為になっていたなら、という美徳とも言うべき人生観こそが、黒澤監督からイシグロさんへ継がれ、そして今一度我々に届けられました。
この大切な人生観、生き方を是非あべのアポロシネマのスクリーンで鑑賞してください。
素晴らしい映画体験があなたを待っています。
スタッフ一同皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。
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★☆執筆者紹介☆★
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ふじもと
黒澤監督の『生きる』も凄く良いので、ご興味があればそちらも是非見て欲しいです!
興味があれば是非!
ビル・ナイ版よりもっと情けなさというか哀愁がある気がします。