出演:石原さとみ/青木崇高/森優作/中村倫也/他
監督:吉田恵輔
あべのアポロシネマです。
本日は「空白」「ヒメアノ~ル」など社会派な作風の映画を多く撮ってきた吉田恵輔監督が新たに挑んだ新境地の最新作、『ミッシング』のご紹介です。
まず、この作品を知らない方の為に簡単にあらすじを書かせて頂きます。
幼い娘が失踪して3ヶ月、未だ見つからない娘を探し日々奔走する夫婦。
徐々に失われていく世間の関心と風化していく事件。
ネット上では叩かれ、謂れのない誹謗中傷を浴び、心を壊しながら、それでも娘を探し再び生きて会う為にもがき続ける失踪した娘の母親、沙織里(石原さとみ)。
想像しただけで胸が張り裂けそうな状況に置かれながら、娘の為に出来る事は全てやる沙織里とその夫の豊(青木崇高)。
沙織里は夫の冷静さに温度差を感じ、苛立ってしまいます。
二人の間には夫婦喧嘩が絶えません。
それでも二人は近隣でビラ配りを行い、情報提供を呼びかけながら、娘の安否を気遣い、日々の全てを捨てて活動を続けています。
家の近くの公園で娘と最後に遊んでいた娘の最終目撃者である沙織里の弟、圭吾(森優作)。
そして唯一3ヶ月経った今も事件の取材を続けてくれる地元テレビ局の優秀な記者、砂田(中村倫也)。
この4人を中心に物語は進みます。
娘を失い全てを捨てて娘を探す母親。
娘を失いながらも気丈に振る舞い、妻を気遣う父親。
失踪した日に娘と一緒に居た母親の弟。
視聴率の為に少しでも事件を印象操作しようとする上層部の命令と母親の想いの間で苦悩する記者。
この四者四様の思いが様々な形でぶつかり合っていく、そういう作品になっています。
瞬間瞬間がどのシーンも本当にリアルで恐ろしく、それでいてユーモアに富んでいて、気が付くと物語に没入してスクリーンから全く目が離せないまま1時間59分が過ぎているという、見終わった瞬間に、「ちょっと近年見ない程凄い作品を観たぞ。」という感覚に襲われました。
では一体この作品の何がそれほど凄かったのか、これはひとえに「共感」という言葉に尽きます。
母親、父親、弟、記者、なんと全員に「共感」出来てしまうんです。
今まで他の作品を観ていてキャラクターの誰か一人に強く感情移入して観るという事はあった様に思うのですが、誰のどの話を観ても、どの言葉を聞いても「わかる。」しかないんです。
「こういう事あるんだよ。わかる。」「判りすぎる。」と、わかるの連続で、共感し過ぎてしまう程、共感してしまいました。
そしてこの尋常でない様な共感を引っ張り出しているのがこの4人の役者の高い演技力です。
特に凄いのが石原さとみさんの演技力で、これ程までなのかと驚かずにいられない程、魂の入った演技が冒頭からラストまでノンストップで続き、そのパワーに引っ張られる形で我々観客も物語に没入していくので、やっぱり役者さんの本気って凄いものなんだな、と思わずにいられませんでした。
また弟役を演じる森優作さんの演技が本当に素晴らしく、私自身が姉のいる弟なこともあり、共感できるところが本当に多かった様に思います。
ずっと胸が痛かったです!
さらに、夫を演じた青木崇高さんの悲哀と冷静な立ち振る舞いにも私自身、妻がいる身として大きく共感しましたし、会社組織で働く社会人としての砂田を演じた中村倫也さんの葛藤にも本当に胸がえぐられました。
全員に共感して心がジェットコースターみたいに揺れ動くという、今までに体験したことがない感情の中、作中ずっと登場人物全員の幸せを祈りながら観ずにはいられませんでした。
さて、そんな今作は本や漫画などの原作はなく、吉田監督が自ら書き下ろした脚本を基に描かれた物語です。
各シーンのリアルなやり取りと各出演者の鬼気迫る演技、それを画角に見事に収め続けた監督の手腕とディレクション能力の高さには本当に恐れ入りました。
世武裕子さんが担当した音楽も素晴らしく、エンドロールで流れる音楽の余韻で心が洗い流される様でした。
出演している役者さんのファンは勿論の事、少しでもこの文章を読んで気になった方は是非映画館でこの作品を堪能して頂きたいと思います。
この物語の結末がどんな着地を迎えるのか、皆様の目で是非確かめて頂きたい作品です。
多くの事を感じて多くの事を考えるきっかけになる、本当に多くの人に見て頂きたい物語になっています。
誰にでも起こりうる、いつ起こってもおかしくない様な恐ろしい事件の中で、今一度自分のあり方を見つめなおせる本当に考えさせられる作品になっています。
是非あべのアポロシネマでご覧下さい。皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。
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★☆執筆者紹介☆★
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ふじもと
最近、必要に駆られて刺繍を始めてみたのですが、
不器用なので早くも挫折気味です。